改めて実効的なハラスメント対策にかかる法整備を求める声明

2025/4/28

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改めて実効的なハラスメント対策にかかる法整備を求める声明

2025年4月28日
日本労働弁護団幹事長 佐々木亮

 今国会において、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案」が提出されている。同法案は、第三者からのハラスメント(いわゆる「カスタマーハラスメント」)に対する措置義務を定め、また、国の責務として、「何人も職場における労働者の就業環境を害する言動を行つてはならないことに鑑み、当該言動が行われることのない就業環境の形成に関する規範意識の醸成がなされるよう、必要な啓発活動を積極的に行わなければならない」ことなどを内容とするものである。

 上記法案は、厚生労働省「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」の報告書(2024年8月8日)を受けて行われた労働政策審議会による建議を受けて作られたものであり、第三者からのハラスメントについて措置義務を求め、他の事業主からの調査協力依頼に対して応じる努力義務を定めるなど、第三者からのハラスメントについて他のハラスメント事案同様の規制を課すもので、一定評価できる。

一方で、当弁護団は、措置義務が実際のハラスメント対策において重要なものであることは認識しつつも、さらなるハラスメントの防止の観点から、繰り返し、包括的なハラスメントの禁止を立法化すべきことを指摘してきた。しかし、同法案は、「職場における労働者の就業環境を害する言動を行つてはならないことに鑑み」(4条4項案)として、ハラスメントが許されないことは前提としながらも、国の「啓発活動」を設けるにとどまるものであって、未だハラスメントを包括的に禁止するものになっていない。

 当弁護団は、厚生労働省の調査においても、使用者・労働者ともに、おおむね3割以上の者が、さらなる取り組みとして、ハラスメント規制を求めることにも照らし、上記法案の規定について、ハラスメントを包括的に禁止する独自の条文化を行い、その上で国の責務を定めること又は、同規定がハラスメントを禁じ、私法的にも違法なものであることを明確化することを求める。

 併せて、未だ声をあげられないハラスメント被害を受ける労働者が多くいる現状、そしてハラスメント申告を行っても企業が十分調査を行わないことがある現状を改善するため、下記に挙げるような措置義務の一層の具体化・充実及び、中小企業・公務職場を含めたすべての職場において、労働者が真に安心して相談できるよう、相談体制・調査対応について支援する具体的な制度を構築すべきことを求める。

まず、第三者によるハラスメントについて、

  • 組織的対応のため、全事業主にマニュアル等の整備を求めた上で、上記報告書に示されたその他の措置もとること
  • 被害が生じたのちも組織的な対応を行うべきこと
  • 刑事事件化された場合にも被害を受けた労働者に組織的なサポートを行うこと
  • 自社の労働者が加害者とならないよう、研修等の防止措置をとること

また、第三者によるハラスメントのみならず、ハラスメントの防止に係る措置義務として、

  • あらゆるハラスメントを包摂した統一的な相談窓口を設置すること
  • ハラスメントに関する就業規則・指針策定に当たり、衛生委員会を設置し、職場におけるハラスメントのリスク評価を行い、行動計画を策定すること
  • 一定の期間ごとのハラスメント研修の義務化すること
  • セクハラ等、ハラスメント被害者の心理状態への配慮・周知啓発すること
  • ハラスメントに該当する例・しない例の見直しをすること
  • 相談窓口及び調査の適正さの担保すること
  • ハラスメント調査に当たって申告者・情報提供者の保護を行うための、社内における情報の取り扱いにかかる具体的な方策の摘示すること

 最後に、当弁護団は、改めてハラスメント対策について包括的な禁止を求め、また、実効的な措置を求めるILO190号条約について、2019年の労働施策総合推進法改正時に行われた附帯決議にも触れられていたように、速やかに批准し、国内においても同条約及びこれに付随する勧告の内容の実現をさらに推し進めることを求める。

以上