高市政権の労働時間規制緩和の方針に反対する声明
2025/12/12
高市政権の労働時間規制緩和の方針に反対する声明
2025年12月11日
日本労働弁護団
幹事長 佐々木 亮
1 高市首相の労働時間規制緩和の方針
高市首相は、自由民主党総裁に選出された直後の2025年10月4日、「もう全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。私自身も『ワークライフバランス』という言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります。」と発言し、多くの労働組合や過労死遺族などから、労働者の長時間労働を誘発しかねない発言であるとの批判を受けた。当弁護団も、同月6日付けの「ワークライフバランスの必要性及び重要性を前提とした政治を求める談話」において、上記発言を批判したところである。
高市首相は、上記発言について、単に自身の決意を述べたものであり、労働者に対して長時間労働を求める趣旨ではない旨弁明している。
しかし、この弁明に反して、高市首相は、自民党総裁選の公約に「労働時間規制につき、心身の健康維持と従業者の選択を前提に緩和します。」と明確に掲げていた。そして、2025年10月21日に首相に就任するや否や、厚生労働大臣らに対して、実際に、現行の労働時間規制の緩和を検討するよう指示している。
また、高市首相は、現行の労働時間規制について、2025年11月5日の衆議院本会議において「残業代が減り、生活費を稼ぐために無理して副業することで健康を損ねる方が出るのを心配してる」、同月12日の参議院予算委員会において「企業が過剰に反応し、本来ならもう少し働けるのにずいぶん乖離がある現状もある」などと答弁し、労働時間規制緩和の必要性を訴えている。
このように、高市首相は、明確に労働時間規制緩和の方針を打ち出している。
2 現行の労働時間規制の強化こそが不可欠
そもそも、労働基準法上の労働時間の原則は1日8時間・週40時間である。そして、例外的に36協定を締結することで設定することができる残業時間の上限は月45時間・年360時間であり、これだけでも使用者が労働者に対して相当程度の長時間労働を命じることが可能となっている。さらに、臨時的な特別の事情がある場合には、年720時間、休日労働を含めれば年960時間まで上限を延長することが可能となっている。
このように、現状の労働時間規制の下でも、使用者は労働者に対して過労死ラインの長時間労働を命じることができるのであって、労働時間規制を緩和する必要性は全くもってない状況であり、むしろ、労働時間規制の強化こそが、社会的に求められている。
労働時間規制が、長時間労働により労働者の心身の健康が害され、精神疾患や過労死が発生することを防止するために重要なものであることは言うまでもない。これにとどまらず、長時間労働は、仕事と家庭生活の両立を阻害し、女性の労働参加や男性の家庭参加を妨げ、少子化の原因にもなっている。
現行の労働時間規制の例外則を、労働時間の原則である1日8時間・週40時間に近づくようさらに強化していくことは、日本社会が健全に発展していく上でも欠かせないものである。
高市首相の労働時間規制緩和の方針は、労働時間規制の強化こそが求められている現在の日本社会の流れに逆行するものであり、日本社会の健全な発展を妨げるものとなりかねず、到底容認できない。
当弁護団は、労働者の心身の健康やワークライフバランスを守り、日本社会が健全に発展していくため、改めて高市政権の労働時間規制緩和の方針に反対の意思を表明する。
以上