当事者の主観により労働基準法上の労働者性を否定しないことを求める声明

2026/2/20

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当事者の主観により労働基準法上の労働者性を否定しないことを求める声明

2026年2月20日
日本労働弁護団
幹事長 佐々木 亮

 厚生労働省の「労働基準法上の労働者に関する研究会」(第5回)が、2026年1月28日に開催され、同研究会に「労働基準法における『労働者』に関する研究会 これまでの議論の整理(案)」(以下「整理(案)」という。)が示された。整理(案)で当事者間の合意により労働者でないと判断してもよい旨の意見が挙げられている点、及び同日の研究会で言及された労働基準法上の労働者に該当するかを判断するにあたって当事者の認識や契約書の内容をいかに考慮すべきかという点について以下、意見を述べる。

 整理(案)の「第2 これまでの議論の整理」「3 本研究会にてこれまで個別に議論した点」「(4)昭和 60 年報告では判断要素として個別に挙げられていない事情(『未分類』の事情)について」「イ 契約に至った経緯に関する事情」で「構成員意見」として、「労働者性の判断において客観的な状況を重視することが大切であることに異論はないが、一定の要件を満たした場合に、当事者間の合意により労働者でないと判断してもよいケースもあり得るのではないか、といった意見があった」ことが紹介されている。

また、同研究会第5回では、当事者の合意で労働者性を否定しないまでも、当事者の認識や契約書の内容について労働者性との関係でどのように考慮すべきかについて今後議論を行うべき旨の意見が出ていた。

 しかしながら、当事者の合意で労働者性を否定するという点は、日本労働弁護団の2025年9月8日付け「労働基準法上の『労働者』に関する意見書」で既に述べたとおり、労働基準法上の労働者性は、同法の適用対象を画するものであり、強行法規である同法の潜脱を防ぐために、就労実態に基づいて客観的に判断されるべきものであるから、当事者の合意によって労働者性を否定することは許されない。

 また、当事者の認識や契約書の内容を同法上の労働者性判断で考慮することも、当事者の合意で労働者性を否定することと本質的に変わりはなく、労働基準法が強行法規であることからすれば、否定されるべきである。

そもそも、労働基準法13条が、強行法規として、たとえ労働者の自由な意思に基づいて締結した労働契約であっても、労働基準法上の基準に達しない労働条件を定める部分を無効とすることの趣旨は、労働者・使用者間による最低基準を下回る契約を許すと、他の労働者に最低基準よりも低い労働条件で契約を行うことの圧力がかかり、他の労働者の利益が害されるという弊害や、労働者間の公正な競争が阻害されるという弊害があり、これらを防ぐ点にあると考えられる。労働基準法13条の上記趣旨は、労働基準法自体の適用の有無というより影響の大きい同法上の労働者性の判断においても、当然に妥当するものである。そのため、仮に、労働者が自由な意思に基づいて労働基準法上の労働者であることと矛盾する内容で契約書を作成する等の契約締結をした場合であったとしても、同契約書等の内容を考慮することは、労働基準法が強行法規であることと相容れず、許されるものではない。

また、現実にも労働者・使用者間には情報収集能力や交渉力の格差が存在することから、使用者による適切な説明の欠如や不当な働きかけによって実際の事実や法的評価とは異なる労働者の認識が形成され、契約書等の作成も使用者が用意したものに応じるほかないことが往々にしてある。このような労働者・使用者間における情報収集能力や交渉力の格差が存在する中で、同法上の労働者性判断に当たり、当事者の認識や契約書の内容を考慮することは、使用者に都合の良く利用され、労働基準法の潜脱につながることが容易に想定されることから、これらの考慮を許すべきではない。

 したがって、当弁護団は、同研究会に対し、当事者の合意により労働基準法上の労働者性を否定することが許されないのみならず、当事者の認識及び契約書の内容を労働者性否定の事情として考慮することも許されないという整理をすることを求めるものである。

以上