裁量労働制の拡大に改めて反対する幹事長声明

2026/2/20

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裁量労働制の拡大に改めて反対する幹事長声明

2026年2月20日
日本労働弁護団
幹事長 佐々木亮

本日、高市総理大臣は、施政方針演説において、裁量労働制の見直しを行うことを明示的に表明し、「成長のスイッチを押して、押して、押して、押しまくってまいります」と述べ、あたかも裁量労働制の対象業務の拡大が経済成長において必要不可欠であるかのように発言した。

当弁護団は、2025年10月6日付で「ワークライフバランスの必要性及び重要性を前提とした政治を求める談話」を、また、同年9月26日に、「裁量労働制拡大の議論にあらためて反対する声明」を出しているように、一貫して働く人の命と健康、そして生活時間を守るためにも、長時間労働を助長しかねない裁量労働制の適用拡大に反対してきている。

改めて述べるが、裁量労働制は、実労働時間にかかわらず、一定の労働時間を働いたものと「みなす」制度であって、実労働時間を規制して労働者の健康・生活時間の確保を図る労働基準法の大原則に対する「例外」の制度である。今でもなお、本来的適用要件を満たさないままに濫用されている事案も多数発生しており、かかる状況を追認するかのような改正は許されないし、対象業務が拡大したとなれば、かえって濫用事例が増加するおそれが高い。また、裁量労働制は、労働基準法の大原則の例外であって、長時間労働・健康被害の危険が高いからこそ、厳格な手続き・運用が求められているのであり、過半数労組の存在等の事情に関わらず、これを緩和すべき理由などない。

2024年4月1日に施行された労働基準法施行規則等の改正では、健康・福祉確保措置の強化や、本人同意・同意撤回の手続の導入等が進められたところであるにも関わらず、その適切な履行がなされているかも不明な中で、それから間もない時期に裁量労働制の要件緩和を行うべき理由など何一つないのである。

ところで、「働きたい人の要望」や、「柔軟な働き方」がしばしば裁量労働制の必要性として語られるが、いずれも裁量労働制の根拠となり得ない。

すなわち、「働きたい人の希望」については、労基法がまさに防止しようとしている労働力ダンピング、すなわち、労働者間の公正な競争を阻害するものであるし、収入を向上させたいという希望については、本来的には根本的な賃上げによって実現されるべきものである。また、能力を向上させたいという希望についても、短時間で十分な成果・量をこなすことが本来的に求められるものである上、裁量労働制の本旨と関係のあるものではない。なお、高市総理大臣は、2025年11月4日、国会答弁において、「残業代が減ったことによって、生活費を稼ぐために無理をして慣れない副業をすることで健康を損ねる方が出ることも私自身は心配しております」などと発言しているが、裁量労働制には残業代を抑制する効果こそあれ、賃金を上げることは法的な要件ではなく、この点においても裁量労働制の拡大は高市総理大臣が「心配」している事態に逆行するものであるとすらいえるし、かかる心配をするのであれば、税制や労働組合に対する支援を拡充する等の方法によって抜本的な賃上げを実現することこそが本筋である。

また、「柔軟な働き方」についても、裁量労働制は業務遂行方法について裁量があるのみであって、業務量そのものに裁量があるわけではない。そうである以上、多くの業務量を与えられれば「柔軟な働き方」など実現する余地もないのであるから、裁量労働制と「柔軟な働き方」は直ちに帰結するものではない。

このように、裁量労働制の拡大を行うべき理由などなく、むしろ、上限規制の順守を徹底し、生活時間や健康が確保される働き方を目指すことこそ、目指すべきものである。

以上のことから、当弁護団は、改めて裁量労働制拡大に反対し、むしろ労働時間の上限規制の順守・監督を徹底して、全ての働く人の命と健康及び生活時間が守られ、働きやすい制度と社会を目指すべきであることを要求する。