会社が休業措置を取ったことに対して、休業補償の支払を求めましたが、会社が資金に余裕がないと言って、60%分の休業手当すら支払ってくれません。
2020/4/25
まず、緊急事態宣言下での休業であったとしても、会社に対して100%の賃金の支払いを求めることができること(民法536条2項)、また、会社には少なくとも労働基準法26条に基づく休業手当の支払義務があることは既に(2)で述べたとおりです。この休業手当は義務違反に対する刑事罰(労基法120条1号)をもって支払いが強制されており、労働者の生活保障の点からも、会社は労働者に対する休業手当の支払いを免れることはできません。
それでもなお、会社が売上の低下など経営上の理由で休業手当の支払を拒むのであれば、会社に、一定の要件の下で国から「雇用調整助成金」(雇用保険法62条1項、雇用保険法施行規則102条の3)を受給できること、新型コロナ対策として受給要件が緩和され、受給金額も拡充されていることを説明し、雇用調整助成金を活用しての休業手当の支払いを交渉しましょう。
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用維持を図るための休業に要した費用を助成する制度です。この助成金は、直接労働者に対してではなく、休業手当を支払った事業者に支払われるものですが、売上の低下等により資金繰りにあえぐ会社にとっては、労働者に支払った休業手当の相当部分が国から助成されるので、使用者には大きなメリットがあります。是非、使用者に積極的な活用を求めましょう。
2020年4月1日以降の緊急対応期間中は、全国で、全ての業種の事業主を対象に、雇用調整助成金の特例措置が実施されており、例えば、以下のとおり、受給要件が緩和されています。
(休業等する労働者に関する要件) |
○ 雇用保険被保険者ではない労働者の休業等についても対象
…例えば、週の労働時間が20時間未満の労働者(短時間の学生アルバイトなども含む)等も対象 ○ 被保険者期間が6ヶ月に満たない労働者の休業等も対象 …例えば、新卒者など、雇ったばかりの労働者の休業等も対象 |
(事業主・休業等に関する要件) |
○ 生産指標(売上など)が前年同月比1ヶ月で5%減少している事業所
○ 短時間休業について、部門・施設等毎の休業も対象 ○ 休業規模について、ひと月の所定労働延べ日数の1/40(中小企業)、1/30(大企業) |
「手続が面倒」などと言って活用を渋るかもしれませんが、
○休業計画の事後提出を認める(なお、緊急対応期間中における休業については計画届の提出不要)
○申請書類の簡素化、記載事項を少なくしている
等、手続に関する諸要件も緩和されています。オンラインでの受付システムもあります。
また、助成率も、2021年4月までは、中小企業や緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に基づき時短要請に応じた飲食店等の大企業等は支払った休業手当の4/5、上記以外の大企業は2/3と従来より引き上げられており、さらに、会社が解雇等(雇止めを含む)を行っていない場合、中小企業や上記時短要請に応じた飲食店等の大企業等は10/10、それ以外の大企業は3/4へと拡大されています。上限額も日額一人15,000円に引き上げられています(特例期間中の過去の休業手当を見直し(増額し)、労働者に追加で休業手当の増額分を支給した場合には、当該増額分について追加で雇用調整助成金の給付を受けることもできます)。
2021年5月以降、上限額が日額一人13,500円に(但し、時短要請に協力する飲食店等は15,000円のまま)、解雇等を行っていない場合の中小企業の助成率が10/10から原則9/10に変更となるなど引き下げの動きも見られ、また、特例措置の期間は現在2021年6月30日までが予定されていますが、労働者の雇用の安定と生活の維持のためにも、雇用調整助成金の充実した特例措置は今後も維持されることが望まれます。
なお、2020年6月12日、新型コロナ対応雇用保険法臨時特例法が成立し、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の制度ができました。この制度は、新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止の措置の影響で休業した労働者のうち、休業中に休業手当を受けられなかった労働者に、当該労働者の申請により、国が日額11,000円(2021年5月からは9,900円)を上限に賃金の8割を直接支給するものです(対象労働者や申請期限など詳細については厚労省のホームページをご確認下さい)。もっとも、休業手当の支払いは罰則で強制された労働基準法上の使用者の義務であり、この休業支援金制度ができたからといって使用者の休業手当支払い義務が免責されるわけでは全くありません。まずは使用者に対して休業手当を支払うよう義務の履行を求めていきましょう。
雇用調整助成金の詳細は厚生労働省のホームページをご覧下さい。
申請は、各地の労働局等で、労働者ではなく、事業主が行います。詳しくは、厚生労働省の窓口案内を参照して下さい。
この制度は、使用者が支払った休業手当の相当部分を助成するものですので、制度を活用して、使用者には休業手当をより多く支払うよう求めましょう。
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