緊急事態宣言が出された場合における労働基準法26条の休業手当について、厚生労働省がQ&Aを出していると聴きました。どんな内容でしょうか。

2020/4/25

厚生労働省がだした「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」「4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)」「問7」には、「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。」との記載がありました(2020年4月21日時点。なお、2020年5月1日時点では、「新型インフルエンザ等対策特別措置法による対応が取られる中で、協力依頼や要請などを受けて営業を自粛し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。」と表現が変わりました。)。

この点、厚労省の解説には、休業手当の支払義務を負わない不可抗力による休業といえるには「①その原因が事業の外部より発生した事故であること ②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること、という要素をいずれも満たす必要があります」としつつ、「①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。」としていました(2020年4月21日時点。なお、2020年5月1日時点では、「①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応が取られる中で、営業を自粛するよう協力依頼や要請などを受けた場合のように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。」と表現が変わりました。)。

しかし、特措法に基づく措置といっても、前記「ア まん延防止等重点措置や緊急事態宣言期間中における協力要請等の段階(レベル)について」で解説したとおり、法的には様々な段階があり、その効果は全く異なります。その影響を一律に論じて、事業の外部において発生した事業運営を困難にする要因であるとすべきではありません。

具体的には、㋐緊急事態宣言前から可能な特措法24条9項に基づく施設の利用停止・催物開催の停止の「協力の要請」にとどまるのか、㋑まん延防止等重点措置期間(特措法31条の4第1項)中の営業時間変更等の「要請」(同法31条の6第1項)や「命令」の段階なのか、㋒緊急事態宣言期間中における施設の使用の停止等の要請の段階(特措法45条2項)か、㋓さらには特措法45条3項の要請に対して施設管理者等が「正当な理由」なく従わなかった場合であって「まん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り」認められる「命令」の段階なのか(特措法45条3項)によって、事業運営を困難にする度合いは全く異なります。ですから、厚労省の解説は誤解を招くもので不適切であったといえます。

また「緊急事態宣言や要請」といっても、要請内容や事業内容、当該労働者の担当業務との関係で休業など必要がない事業もありますから、厚労省が掲げる「②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること」の該当性の判断において、厚労省の解説が示すとおり、「自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか」「労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか」が慎重に検討されねばなりません。

そういった意味では、厚労省のQ&Aが結論として指摘するとおり「労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません」といえ、緊急事態宣言に基づく要請(特措法45条2項)や命令(同法45条3項)が出されても、休業手当の支払は個別具体的な事情を考慮して決せられることに注意すべきでしょう。