カスハラを含むあらゆるハラスメントに対する実効的な対策の実現を求める幹事長声明

2026/1/22

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カスハラを含むあらゆるハラスメントに対する実効的な対策の実現を求める幹事長声明

2026年1月22日
日本労働弁護団
幹事長 佐々木 亮

 2025年12月10日、第88回労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)において、「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」(以下、「カスハラ防止指針案」という。)、および、「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」(以下、「就活セクハラ防止指針案」という。)が公表された。

両指針案は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案」(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)に対する衆参附帯決議を踏まえ、制定される予定のものであるが、未だ不十分な点が残されている。

 例えば、カスハラ防止指針案においては、カスタマーハラスメントへの対処の方法の周知や相談体制の整備等が事業主の講ずべき措置として示されているが、マニュアルの作成は、「対処の内容等を定め、労働者に周知していると認められる例」の一例として挙げられているに留まる。しかし、現場で実際に初期対応や判断を求められる労働者にとって、組織的に決定して作成された明確なマニュアルが存在しない場合、どこまでがカスタマーハラスメントに該当しない申入れであり、どの段階でカスタマーハラスメントとして組織的対応に切り替えるべきか判断できず、結果として担当者個人が困難な判断を迫られることになる。担当者の負担を軽減し、また、組織的にカスタマーハラスメントであると位置づけて対応すること自体への萎縮を避けるためにも、対応方針・手順を明文化したマニュアルを作成することの重要性は高い。そのため、指針案において、事業主の規模等にかかわらず、マニュアルの作成が本来望ましい対応であることをより明確に記載すべきである。また、同指針案では、「労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと。」「必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応する」等として、管理監督者等が、部下の保護やカスタマーハラスメントの対応判断における重要な役割を果たすことが期待されているが、その責務に見合った支援やフォロー体制は十分に示されていない。管理監督者自身も一労働者であるから、管理監督者が過度な心理的負担を負わないよう、外部専門家への相談体制の整備や管理監督者向けの研修等が行われるべきことも明記されるべきである。

また、就活セクハラ指針案においては、「求職活動等におけるセクシュアルハラスメント」とは、「求職活動等において行われる求職者等の意に反する性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害され、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該求職者等が求職活動等を行う上で看過できない程度の支障が生じること」であるとされている。しかしながら、「意に反する性的な言動」がなされれば、「求職活動等が阻害され」るか否かにかかわらず、セクハラには該当すると判断すべきであるし、まして、「当該求職者等が求職活動等を行う上で看過できない程度の支障が生じる」という限定を付す必要は全くない。この点は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下、「セクハラ防止指針」という。)とも共通する問題点である。

両指針案と併せて、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下、「パワハラ防止指針」という。)にも、いわゆる「自爆営業」、および、いわゆる「カミングアウト」を強要する又は禁止する行為がパワハラに該当し得ることを追記されることとなっている。このような追記自体は妥当であるが、いまだパワハラ防止指針が不十分な内容にとどまっていることは、当弁護団が2019年12月10日付「パワハラ指針案及びセクハラ指針改正案に対する意見書」で指摘したとおりである。

 このように、今回新たに制定されるカスハラ防止指針案及び就活セクハラ防止指針案、ならびに、すでに制定されているパワハラ防止指針及びセクハラ防止指針等には、いまだ不十分な点が残されている。

各事業主は、実効的なハラスメント対策が進むよう、指針の範囲に限らず、さらに踏み込んだ対策をすべきである。

また、実効的なハラスメント対策を実現するためには、労働者及び労働組合の積極的な取組みも不可欠である。カスハラ防止指針案やパワハラ防止指針等においては、「事業主は、…労働者や労働組合等の参画を得つつ、…運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要である」とされている。とりわけ、カスハラ防止の具体的措置を講じるにあたっては、業種や職場毎の個別の事情を踏まえたものでなければ実効性を欠く。現にカスハラの被害を受けうる立場である労働者・労働組合の意見を聴取することは必要不可欠であり、事業主は、対策の検討にあたって、労働者・労働組合の参画を積極的に求めていくべきである。また、労働組合としても、事業主の対策が進むよう、各労働者から日常的に寄せられるハラスメントに関する相談を通じて蓄積したノウハウを生かし、事業主に対し、積極的に、実効的なハラスメント対策を整備するよう求めていくべきである。

以上