新型コロナのワクチン接種の有無が書かれた社員名簿が社内に貼り出されました。私は過去に重度のアナフィラキシーショックになったことがあり、怖くてワクチン接種を控えています。しかし、社員名簿を見て私がワクチンを接種していないと知った同僚から、「おまえと一緒に仕事したくない」「ワクチン打つまで会社に出てくるな」としつこく言われています。どうすればよいでしょうか。
2021/12/5
⑴ プライバシー権の保障
まず、プライバシーの権利は、憲法13条によって保障された基本的人権であるとともに、私人(会社)と私人(従業員)の間でもプライバシーの権利の侵害は民法の不法行為となって民事上の責任を生じさせるという意味で法律上保護された権利として認められています。
ワクチン接種の有無といったセンシティブな医療情報を、本人の同意を得ずに公表することは、プライバシー権の侵害にあたります。
また、個人情報保護法においても、要配慮個人情報とは「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」と定義されています(個人情報保護法2条3項)。
要配慮個人情報の具体例としては、「本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者により行われた疾病の予防及び早期発見のための健康診断その他の検査の結果」、「健康診断の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師等により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと」が挙げられます(個人情報保護法2条3項、同施行令2条2号・3号、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン参照)。
このように、ある個人の健康状態が明らかとなる情報で、病気を推知させる可能性がある情報については、要配慮個人情報にあたると解されます。そのため、新型コロナのワクチン接種にかかわる情報も、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたる可能性があります。そして、要配慮個人情報については、例外を除き、第三者への提供には事前に本人の同意を得ることが必要です(個人情報保護法23条)。
憲法上の観点からも、法律上の観点からも、会社があなたの同意なしにワクチン接種の有無を社内に掲示しているのは問題ですので、まずは速やかにそのような掲示をやめるよう会社に求めて下さい。
⑵ ワクチンの接種は本人の意思によるべきこと
新型コロナのワクチン接種については、予防接種法上、「接種を受けるよう努めなければならない」という規定が適用されます(予防接種法9条、附則7条)。つまり、あくまで努力義務であり、新型コロナのワクチン接種を受けるか否かは本人の意思に委ねられています。
個人の意思に委ねられているにもかかわらず他の従業員がワクチン接種を強要するといった個の侵害や、ワクチン接種していないのを理由に一緒に働くことを拒否するといった精神的な攻撃は許されません。会社や労働組合に相談して、直ちにハラスメント行為をやめさせましょう。
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